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レポート


2015/12/21レポート世界

アイルランド酪農(後編)ヨーロッパ生乳生産調整「クォータ制」の廃止


ヨーロッパ生乳生産調整「クォータ制」の廃止

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アイルランドで2015年最大の酪農ニュースになったヨーロッパの生乳生産割当制度「クォータ制」の廃止についてご紹介致します。

※デイリーマスター社(アイルランド)ケイプリス・アサコさんの寄稿をご紹介しています。(2015年12月公開)

アイルランドの酪農紹介(前篇)はこちら

ヨーロッパ最大の屋外酪農祭(中編)はこちら

 

EU圏内では乳製品の過剰生産・在庫を抑制するため、1984年から酪農家が生産できる乳量を制限していました。しかし、その制度が6年前から徐々に緩和され、ついに2015年4月に完全撤廃されたのです。つまり、ヨーロッパ各国の酪農家は、上限無く、生乳を生産できるようになりました。


過去30年間の生産乳量の制限は大打撃

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前篇でご紹介の通り、アイルランドは酪農に恵まれた大規模な採草地・放牧地を持ちますが、人口は約460万人と小規模な国です。そのため、国内で飲料用となる牛乳は、全生産乳量の10%にしか満たず、ほとんどの生乳は加工品となり、世界中に輸出されています。

 

一時は「倉庫にバターの山ができた」といわれるヨーロッパ屈指の乳製品生産国であるアイルランドの酪農家にとって、この過去30年間に渡る生産乳量の制限は大きな打撃となっていたのです。


生産調整の撤廃がもたらす新たな問題

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いよいよクォータ制が廃止となる数日前(2015年3月末日)には、多くの酪農家が生乳を溜められるだけバルクに溜め込み、2015年4月1日午前0時をまわってから一斉に出荷するという珍事も起こりました。
 

それを見越した生乳加工業者各社は、クォータ制廃止に合わせて工場を増設し、当日は集乳車を徹夜で向かわせるなどの対応に追われました。なんでも、4月1日の全国の集乳量は、「通常の10倍」もあったとか・・・!



クォータ制の廃止は、当然、良いことばかりではなく、懸念されていた通り、やはり、乳価は下落の一途をたどっています。
2015年に入ってから下がり続けているアイルランドの平均乳価は、同年10月には、約38円/L※まで下がってしまいました。
ヨーロッパ全体の平均乳価も、2014年後半から下がり続け、この1年間で20%以上も暴落しています。
※2015年10月時点で€28.91/100kg (€1=133円)



 

二分する酪農戦略

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乳価の下落を受けて、ヨーロッパの酪農家は、「規模を拡大して、生産乳量を増やす」と「規模を縮小して、コストを抑える」の2方向に経営の方向性が分かれてきているようです。

 

農地の制限から、簡単には規模拡大できない状況にあるヨーロッパ大陸の国々では、各地で酪農家のデモが勃発し、保護措置をとるように政府へ訴え続ける酪農家団体が目立ちます。

小規模経営の酪農家は、下がる乳価に耐えられず、泣く泣く飼養頭数を減らすことで、コストを抑え、最終利益を残すことに精一杯の状況です。


アイルランドは生産乳量の増加に意欲的

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一方、放牧をメインに飼料費コストを抑える方向で酪農経営をしてきたアイルランドの酪農家にとっては、生産乳量を増やすことが、これからの収入を支える大きなポイントになります。
多くの酪農家がクォータ制度廃止をビジネスチャンスととらえ、国をあげて生産乳量の増加に意欲的です。


 


アイルランドの農林水産省は、2020年までに、1万8千戸の酪農家が飼養する飼養頭数100万頭(2015年)を30万頭プラスの130万頭へ、生乳生産量は55億L(2015年)から75億Lへ増やすという目標を発表しました。
しかし、こうした国家的な攻めの戦略でも、乳価の下落に耐えきれず離農に追い込まれる酪農家は少なくないと見られ、アイルランドの酪農戸数は、2020年までに3割程度減少して、1万2千~1万5千戸になるとも懸念されています。

 

ヨーロッパ酪農の未来を左右するのは…?

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こうした激動の1年を過ごしたアイルランド、そして、ヨーロッパの酪農家達にとって、やはり生き残りをかけての飼養頭数の増大や規模拡大は避けて通れません。そしてその先にあるのは、輸出先の拡大です。

地球の反対側で起こっている酪農大転換ですが、今後、日本の酪農に及ぼす影響も少なくないかもしれませんね。


アイリッシュ農業BOYのカレンダーはいかが?

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さて、3回目となった私の寄稿も、2015年はこちらが最後です。皆様の2015年はどんな1年だったでしょうか?師走の忙しさに追われる12月ですが、来年のカレンダーはもうご準備されましたか?
 

アイルランドでは、毎年公募で選ばれた現役農家・酪農家の若い男性をモデルに「アイリッシュ ファーマーカレンダー」が販売されています!


収益金の一部を寄付するチャリティーカレンダー

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1冊10ユーロ(2015年11月時点で約1300円)のカレンダーは、収益金の一部が、発展途上国へ家畜を贈るチャリティーに寄付されています。7年目を迎えた取り組みで、ヨーロッパはもちろんアメリカやカナダ、南アフリカからも注文が入っているようですよ。


セクシー というより、愛くるしい!?アイリッシュ農家さんと動物達のカレンダーは、こちらのWebサイトから注文できます。www.farmercalendar.com 

 

それでは、2016年も皆様にとってさらに飛躍の1年となりますように・・・。


※デイリーマスター社(アイルランド) ケイプリス・アサコさんからの寄稿をご紹介しています。

※掲載写真 出典元:CR Enterprise Ciara Ryan


 




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